20年目の情事

もう20年間W不倫生活をしています。不安がないと言えば嘘になる。でも、一人で生きていくには辛すぎる。

帰り際

この日はいつものホテルが取れなくて

初めて行くホテルだった。


私たちはいつもエレベーターの中で別れる。

ドアが閉まって、開くまでは恋人。

でもそのドアが開いた瞬間からは他人。

別々の方向へと歩く。


駅の真上にあったそのホテルから

地下道に降りた。

地下鉄まで歩く途中で

別の入り口から来たカズをまた見つけた。


私は嬉しくてとっさに側に歩み寄る。

まるで構ってほしい子犬みたい。


カズは電話をしながら足早に歩いている。

仕事の話のようだ。



背の高いカズ。

ラグビーで鍛えられたというその体はとても男らしく

広い肩幅、厚みのある胸。

申し分のない、いい男。


私はあなたのカラダが大好きだ。



夜寝る前にメールを送ってみた。

「今日、帰りに地下道でまた会ったね。

カズ電話してたけどー」


するとカズ

「いや、全く気付かなかった。

だって人がたくさんいたでしょ」




気付かなかった?

ほとんど横にいたよね?




どうせ

ウソなんじゃないの・・・・

なんて思ってしまう。

不眠症

私は心が壊れはじめていた。



・・・ちょっと大袈裟かもしれない。

でも、確実に病んでいた。


あの大晦日の突然のサヨナラ宣言をされて以来、

まともに朝まで眠れた記憶がない。


やっと眠りにつけたと思っても、

気がつくと起きている。

だいたい夜中2〜3時頃なので

もう一度頑張って目を閉じる。


でもやっぱり気がつくとまた起きている。

だいたい5時過ぎあたりが多い。

7時起床の私にとって、

これはちょっと早すぎる。


もう一度眠ろうと努力するが

焦ってしまって結局寝れない時のほうが多い。


こんな状態がずっと続いていて、

疲労がかなり蓄積してきている。



久しぶりにカズと会って、

体を重ねて確かめ合ったものの

心がまだ迷子になっていて

ここに戻ってこない。


不安で仕方ない。



カズからのメールを見つけるたびに

ドキッッとしてしまう。


嬉しい時のドキドキではなく、

怖いものを見た時のような感覚・・・


メールを開けて、

「やっぱりやめとくわ。

バイバイ〜」


なんて入ってやしないかと

怯えている自分に気づく。


どうしよう、

こんなんじゃ何のために

付き合っているのかわからない。



カズが言った。

「君と別れなくて本当によかった。

もう絶対に離さないから・・・」





あんた、

クリスマス前にも同じこと言ってたよね。


心の中で冷笑した。

腕の中に・・・

・・・入れた


彼の腕の中にもう一度入れた。


でもなんだろう、

この違和感・・・・

あの慣れ親しんだ暖かい腕の中じゃない。


あれだけ恋焦がれていたカズの腕の中

どうしてこんな気持ちになるんだろう・・・


私は彼の腕の中に帰れた安堵感と

言いようもない不安感に襲われながらも

彼に身を任せた。


いつもと変わらない

優しくて激しいカズ。

強引でちょっとSなカズ。

どれも大好きな私のカズ・・・


なのに何かが違う。




心が喜んでいない・・・


腕の中にいるのに

不安で不安で仕方ない。


カズ・・・

私は

心が壊れちゃったかもしれない。